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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(あ)934号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人小倉ミチヨの弁護人斎藤素雄の上告趣意第一点、被告人望月新助の弁護人清水誠造の上告趣意第一点について。

所論は、結局本件文書は、性科学書であって、猥褻文書に当らないとの事実誤認、単なる法令違反並びにこれを前提とする違憲の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、原判決が本件文書各号を検討していずれも全体として刑法一七五条の猥褻文書に該ると判断したのは正当であって、かかる文書の販売等が憲法二一条の表現の自由に属しないことは、当裁判所大法廷の判例(判例集一一巻三号九九七頁以下参照)に照し明白である。

弁護人斎藤素雄の上告趣意第二点、被告人小倉ミチヨの弁護人中込陞尚の上告趣意について。

所論は、違憲又は判例違反をいう点もあるが、実質は、本件行為は不定、多衆を対象としたものではなく且つ販売又は頒布行為に当らないとの事実誤認、単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、この点に関する原判決の説示は正当である。

弁護人斎藤素雄の上告趣意第三点について。

所論は、小倉被告人は本件につき販売の目的又は本件犯罪行為の認識故意がないとの事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、この点に関する原判決の説示も正当である。

弁護人清水誠造の上告趣意第二点について。

所論は、判例違反をいうが、所論引用の大審院判例にいわゆる「不定多衆」とは、原判決説示のごとく不定または多衆の意義に解するを相当とする。けだし、不定人に販売又は頒布するときは、結局多数人に行き渡る虞があるからである。されば、原判決は、所論大審院の判例と相反する判断をしていない。

同第三点について。

所論は、事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同四一一条二号、三号を適用すべきものとは認められない。

よって、同四〇八条に従い、裁判官の全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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